
「36.475回断られよう!」という逆説的ユーモアを武器に、私は現場を歩き続けました。
しかし、ただ闇雲に回るだけでは、営業としての結果はついてきません。
そこで私が実践したのが、LDEの核心理論である「1%当為変圧」でした。
巨大な「当為」を、扱える電圧に変える
営業の世界には「今月○件の契約を取れ」という巨大な目標が常にあります。
これをそのまま受け取ると、そのプレッシャー(高電圧)で私たちの精神はショートしてしまいます。
LDEでは、この「〜せねばならない(当為)」を、今日この瞬間に実行可能な小さな行動、つまり「1%の変圧器」を通した具体的なアクションに落とし込みます。
当時の私にとって、それは「保険を売る」ことではなく、「徹底的に聴く」こと、そして「挨拶をする」ことでした。
保険の「ほ」の字も言わない営業
私は、自分が保険の営業であることを一旦脇に置き、目の前のお客様の話を「聴く」という1%の誠実さにエネルギーを全集中させました。
大学での産業心理学の教授は、人間関係においてまず重要なことは、「挨拶」だとも言っていました。
教授は、「オ」はようございます。「ア」りがとうございます。「シ」つれいしました。「ス」みませんでした。と挨拶を交わし、この「砂漠社会にオアシスを作らなければならない」と言っていました。
私のLDEでいう「実存的連帯」を作る「1%当為変圧」は教授の言っていた「挨拶」でした。
私が教授に教わった「事後的自由」で名付けた「オ・ア・シ・ス運動」を、私は実行しようと思ったのです。
また、教授は「カールロジャーズの積極的傾聴法」に言及していました。
人間は、「耳」に「門」をして人の話を「聞く」のではなく、「積極的に聴く」ことをしなければならないことを強調していました。
人間は、人の話を「真剣に聴かなければ」本当の人間関係はできないと述べていました。
- オアシス運動: 誰に対しても自分から明るく挨拶をする。
- 積極的傾聴: 相手が何を大切にし、何に不安を感じているのか。自分の利益を捨てて、ただ耳を傾ける。
私はこの2つの実行していったのです。
「1%の誠実さで、電圧を調整する」。
その地味で泥臭いサイクルの繰り返しを続けていたある日のこと、驚くべきことが起きました。
奇跡は「事後的」にやってくる
いつものように保険の話など一切せず、ただお客様の話を聴き続けていたとき、お客様の方からこう切り出されたのです。
「ところで、あんたのところはどんな保険があるの?」
私は驚きました。
売ろう、売ろうと力んでいたときには見向きもされなかったのに、1%の「聴く」という応答に徹した結果、向こうから扉が開いたのです。
巨大な理想を追うのではなく、今この瞬間の「1%」に意味を込める。
その回転音が響き始めたとき、運命という風向きが変わり、結果という名の「奇跡」が事後的に立ち上がってくる。
これがLDEが教える、最も確実な航海術なのです。
絶望を笑い飛ばす「精神の反抗力」
営業の現場は、決してきれいごとだけではありませんでした。
当時はパワハラを行う先輩もいましたし、せっかくの契約を横取りされるような理不尽なことも日常茶飯事でした。
しかし、私は不思議と気になりませんでした。
「ここは強制収容所ではない。ガス室に連れて行かれるわけではないのだから、私の心までは支配できない」 そう自分に言い聞かせ、あえて職場で同僚と冗談を言い合っていました。
それは私にとって、フランクルの説く「ユーモア」という精神の筋力を鍛える訓練でもあったのです。
「死ぬまで生きるぞ!」という決意
ある時、同僚たちが今にも倒れそうな顔をして、「こんな仕事毎日やっていたら、死んじゃうんじゃないか?」と漏らしたことがありました。 その時、私は思わず声を張り上げました。
「よし、俺も死ぬまで生きるぞ!」
当たり前のことのようですが、この「逆説的な決意」と、その後に続けた短編ジョークによって、張り詰めていた「場の空気」がふっと緩んだのを感じました。
絶望的な状況にあっても、ユーモア一つで世界の色彩を変えられる。 その手応えを掴んだ瞬間でした。
雨の日の「いい天気ですね」が生んだ奇跡
また、ある雨の日のこと。
重いノルマを背負い、契約も取れず、私の心も雨模様で気がめいっていました。
どんよりとした気分でインターホンを押し、玄関に入れてもらった瞬間、無意識に言葉がこぼれました。
「今日はいい天気ですね」
外は土砂降りです。
普段から冗談を言うのが癖になっていたのでしょう。
一瞬の沈黙の後、お客様はドッと笑い出しました。
「あんた面白いね。今日は大変だろう、お茶でも飲んでいきなさい」
その笑いによって、私とお客様を隔てていた壁が消え、結果としてなぜか保険の契約をいただくことができたのです。
状況は変えられなくても、その状況に対する「態度」は100%自分が決める。
LDEの「1%当為変圧」とは、こうした小さな笑い、小さな一言から始まる「精神の革命」なのです。
次回予告:数値化という誘惑を捨てて
「結果」が出始めると、つい人間を数値で測りたくなります。
しかし、LDEはあえてその誘惑を断ち切りました。
次回、AIとの対話を通じて再確認した、人間を点数で差別しない「方向の哲学」についてお話しします。